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今夜の番組チェック

旅先の出来事3


Episode54   ギロ
 ギリシアの街を歩いているとよく、食堂の店先や街角で、でっかい串にさした円錐形の羊肉を、コマのようにクルクル回しながら焼いているのを見かける。初めは変な形だと思ったけど、下(円錐のとがった方)から火であぶっている訳だから、効率的な形なんだろう。
 焼けた部分から順にナイフでこそげとった肉を、インドのナンのようなイーストなしで焼いたひらべったいパンにのせ、野菜やハーブを加える。最後に特性のタレをかけ、はさむとギロの出来上がり。
 出来たてのあつあつを紙に包んで渡してくれるので、その場や公園で、時には歩きながら食べる。
 これがとってもおいしい。おまけにお腹もふくれる。値段は80円〜200円くらいまで。
 中の具やタレが店によって違うので毎日食べても飽きない。
 クレープのような薄い生地にはさんでくれた店や、平たいパンでなく、ふつうのフワフワのパンの中身をくり抜いたのに、タレをつけて串焼きにしたサイコロ状の肉をいれてくれた店もあった。
 肉だけでなく野菜もたっぷり入っているので、栄養のバランスもいい。
 ギリシアを旅する貧乏人の強い味方、それがギロだ。



Episode57   立ち食いピッツァ
「イタリアに安いレストランはない」
「この辺りに安いレストランはありませんか?」という私の問は、もうちょっと云いようがないの?というくらいつっけんどんな回答を得た。
 ローマのテルミニ駅前であやしい客引きにつかまって泊まった宿の主人は超愛想がない。
 が、かわりに立ち食いピッツァ屋さんを教えてくれたので、まぁ、良しとしましょう。でも、後からピッツァ屋に紹介料を請求しに行っても、不思議はない雰囲気。
 裏通りにあったその店は比較的新しい感じで明るい内装。ショーケースの中に色んな種類のでっかくて四角いピッツァが並んでいる。
 そう、立ち食い屋のピッツァは四角いのだ。
 おいしそうなヤツを選んで「これくらい」と手で大きさを示し、へらみたいなナイフで切ってもらう。それをオーブンでサッと温めて紙にのせ、グラムいくらでお金を払うという寸法。チーズがとろける熱々という訳にはいかなくて、せいぜいあったかい程度だけど、結構いける。
 何より、この方法のいいところはあれをちょっと、これをちょっとと食べくらべができる事。味は到底レストランで注文してから焼いてもらうピッツァにかなわないけど、一人で食べきれないようなでっかいのをひとつ、より楽しめるのは確か。
 冷たいまま食べるフレッシュピッツァなんてのもあった。
 もちろん、値段だって、そこらのハンバーガーより安いくらい。
 とにかく、このイタリアならではのお店にはまってしまった私とかみつくは、行く先々で立ち食いピッツァ屋を探して歩いたのだった。



Episode61   モスクワ・ナイトツアー
 湾岸戦争があった年の3月。
 成田からアエロフロートに乗ってモスクワのシェレメチボ空港に着いた。アテネまでの乗り継ぎ便が翌日発なので、その日はモスクワでお泊まりだ。
 飛行機を降り、トランスファーカウンターで随分待たされて、『ホテル。21番ゲート』とだけ書かれたボーディングパスを渡された。説明なし。
 仕方がないので同じ飛行機に乗っていた日本人ばかりかたまって、21番ゲートの前に行き、みんなで途方に暮れていた。オフィスに訊きに行っても、「待ってろ」しか云われなかったし。
 何かの係員らしい赤いコートの似合うおねーさんが来た。やっとホテルに連れて行ってもらえるのかと思ったら、「モスクワ観光に行かないか?」と云う。
 一人10ドル。トラベラーズチェックもクレジットカードもダメ。ドルのキャッシュのみ。
 多少の持ち合わせがあったので、参加してみる事にした。折角だもん。
 一人ずつお金を渡して、名前を云って、名刺サイズのチケットをもらう。「8時にここへ集合」とだけ云われて、また放っておかれた。
 ううう、ホテルはどこなのよー。荷物置いて、顔を洗いたい。
 8時と云われたのに何故か7時20分頃さっきのおねーさんが再登場。パスポートを預けて、バスに乗った。8時までよそをウロウロしてたら置いて行かれるところだった。よそ、って云っても空港からはでられないんだけどさ。
 赤の広場で降ろされた。
 でも、光源が足りなくて夜間モードで撮った写真は手ブレしてた。三脚なんて持ってなかったし。10分しかなかったので、衛兵交代も見られなかったしなぁ。
 あとは市内をバスでサッと回って、おしまい。
 暗いし、どこにでもあるような建物が並んでるだけ。
 あ、でもマクドナルドがあった。そして看板のMの字のまんなかの足下に赤い旗のデザインが…… Episode62           モスクワのホテル  バスを使ったモスクワの夜のお散歩(サイトシーイングツアーって云われたけど、それ程のもんじゃなかった)を終えた私達は、乗り継ぎの為にアエロフロートが用意していたその日の宿へと連れて行かれた。
 なんかやけにだだっ広い敷地に平屋建ての建物が点在している。そのうちのひとつがレセプションと食堂だった。
 駒ひとつの高さが30センチはありそうなでっかいチェスセットなんてものが置いてあったりする。
 私とかみつくに割り当てられたのはそこから寒い中を少し歩いた所。6号館の10号室。
 ドアを開けたらちょっとしたエントランスホール。
 キッチンがあるー! と喜んだけど、鍵がかかっていた。食堂にはバカに大きなからっぽの食器棚。なぜかソファーベッドも。
 そして10畳くらいありそうなベッドルーム。すべて見た目豪華だけどなんとなく安っぽい。
 幸いバスタブがあったので、冷え切った身体を温めようとお湯をはる。でてきたのは赤っぽい水。水道管錆びついてるよ。しかもぬるい。一応挑戦はしてみたけど、余計風邪ひきそうだったのでそうそうにあがった。
 翌朝は5時起床。
 6時15分前くらいに雪道を歩いてレセプションのある建物へ。驚いた事にちゃんと定刻の6時にバスが来た。
 空港まで20分。パスポートと朝食のクーポンを受け取った。が、待てどくらせど朝食はこない。
 あきらめて搭乗した人もいたが、ギリギリまでねばった私とかみつくはなんとか朝食をゲット!
 小さい丸パン1個、サラミハム一切れ、すっぱいチーズ、ゆで卵、インスタントコーヒー。コーヒーは底に粉がたまっていた。



Episode64〜66   官僚主義的手続き
 ちょっとォ、そりゃないよォ!
 モスクワ。シェレメチボ空港のトランスファー・デスク。
 ことの起こりはリスボンのリベルターデ大通りにあるアエロフロートのオフィス。
「リコンファーム・プリーズ」
 と言ってチケットを差し出すと可愛い金髪の係員がニッコリ笑って端末に打ち込みをしてくれる。が……
「え、何? フライト・スケジュールが変更になった?」
 そ、そんな……。
 あわてる私達の前に時刻表が提示される。なるほど、マドリッド/モスクワ便とモスクワ/東京便は当日の乗り継ぎが出来ないようになっている。
 ゲゲゲッ、という事はまたあの高くて不便で設備の悪いホテルに泊まって不味い食事をしなければいけないって事だよね? ひどい! 日本で予約いれた時には同日乗り継ぎ便だったのに。
「つまり、ホテルの宿泊料を余分に払わなきゃいけない、って事ですか?」と訊くと
「必要ないと思います。スケジュールを変更したのはアエロフロートの都合ですから」
 との返事。とりあえず、胸をなでおろす。
「でも、マドリッドでもう一度リコンファームをして戴けませんか」
「へ? どうして? それって、どうしてもやらなきゃいけない?」
「いえ、別に必要はありませんが……」
「ベター?」
「そうです」
 てな訳で帰国が一日遅れる旨、家に連絡をいれ、マドリッドではオフィスまで行っている暇がなかったので電話でリコンファームをすませた。それも、電話で英会話っていうのに自信がなかったから海外アシスタンス・サービスに代行してもらって、問題なし、の連絡をもらっていたのに
「コンピューターの宿泊者リストに名前が載っていない。ホテルに泊まりたければ料金を払え」
 と、モスクワに着いてから言われたのである。それも、搭乗前に払った場合の倍の金額を。あったまきちゃった!
「2回もリコンファームしてホテル代を払う必要はないって言われてたのに。払わなきゃいけないならリスボンがマドリッドで言っておいてもらえば払って来たわっ、それを今さら倍払えだなんて……」
 色々言ってみたけれど馬耳東風。メチャクチャ腹立ってたんで空港の床で寝てしまった。

 アエロフロートの対応に頭にきた私とかみつくは空港で夜明かしする事に。
 でも、仲間は沢山いた。
 みんな寝袋や毛布を持参している。どうやら、彼らは我々と違って最初から旅費をケチって空港の床で寝るつもりだったらしい。
 私はいつものように機内持込み手荷物だけたったから、保温シートやユースホステル用シーツを持っていたけれど、かわいそうなのはかみつく。
 もうどこにも寄らない、帰国するだけ、と思ってお土産を山ほど買い込んで、私のよりは大きいリュックをパンパンにしてしまった為、マドリッド空港の免税店で買ったお酒や煙草、ウェストポーチにはいっている貴重品以外の荷物はスルーチェックで預けてしまっていた。着替えも歯ブラシも何にもない。6月とはいえモスクワの夜は結構冷えた。

 シェレメチボのレストランはバカ高い。
 おまけにドルもしくは円(日本レストランがはいっているのさ)で支払い。免税店にはキャビアぐらいしかおいていない。
 普通トランスファーの乗客はトランスファー・オフィスでミールクーポンをもらって配給(?)を待つ。が、運悪く私がオフィスに行った時には着いた時に押し問答した係員がいて、クーポンは出せないと言われた。……けどかみつくが再挑戦して、別の係員からクーポンをせしめた。ひどくいい加減である。
 はっきりいってとても食事とは呼べないような代物と泥のようなコーヒー(それも配給の順番が遅いとミルクがなかったりする)を3回も食べた。
 東京行きの便の離陸時刻が近づいてようやくモスクワから脱出できる、と思った矢先、それは起こった。
 とにかく、次の飛行機にはなにがなんでも乗らねばならぬ、と私とかみつくは離陸時刻の一時間も前からゲートに並び、まっさきにボディチェックを受け、搭乗ゲートが開くのを今か今かと待ち構えていた。
 何しろモスクワ発の便は自由席である。チェックインしても、乗り込むのが遅いと、席がなくなったとか云われて搭乗を拒否されかねない。一流の航空会社とは訳が違うのだ。

 帰国便に一番乗りしようと、ずっと待っていた我々がいさんで搭乗ゲートをくぐろうとすると、係官に止められた。そこで待っていろと言う。
 イライラしながら待つ私とかみつくの前を次々と乗客が通り過ぎていく。うわー、これで席がなくなったら目もあてられない。
 そして、他の乗客が全員乗り込んだ後、係官はおもむろにトランシーバーを取り上げ、いづこかと連絡を取り始めた。
 そして、
「トランスファー・カードをボーディング・パスと交換してこい」と言う。
「どこで?」
「トランスファー・オフィスだ」
 ゲ――――ッ!
 それって空港の反対側だよっ。なんで、ボディチェックの時に言ってくれなかったのさっ。(搭乗ゲートに並ぶ前にトランスファーカードを見せてボディチェックを受けていた)
 さっきだって、随分長いこと他の乗客が乗るのを見てたんだ、その間に行ってこれたはずじゃないかァッ。
 無理が通れば道理ひっこむ。
 かみつくと私は必死に走った。息をきらせながらオフィスに飛び込み、手続きをしてくれ、とわめきたてる。
 と、ディスプレイの東京行きの表示がテイクオフに変わった。
 そ、そんな――っ                             
「荷物がっっ!」と、かみつく。
「さっきの便に私のバックパックが載ってる!」
「どーしてくれるんだ?飛行機でちゃったじゃないかァァッ」
 激怒する我々にトランスファーオフィスの係官はこともなげに云ってのけた。
「今日は東京行きがもう一便あるからそれに乗ればいい」
「荷物は?」
「東京に連絡しておく」
 ほんとーに乗れるんだろーねー、次の便。と疑いを抱きながら待つ事約2時間。
 乗れました。ちゃんと。成田についたら、かみつくの荷物もちゃんとあったし。
 でもね、後(東京)で聞いた話。
 マドリッドから同じ便でモスクワに着いたおじさんもホテル代払ってなかったのね。でも、ちゃんと泊まれたの。追加料金なしで。この違いは一体どこからくるんでしょうね?



Episode68   サンフランシスコ空港で
 伊丹からユナイテッド航空でサンフランシスコ空港に着いた。
 入国審査官はまだ若い金髪のお兄さん。結構男前。
「どこへ行くの?」と訊かれて
「ラスベガス」と答えたら
「何しに行くんだい? 結婚するの?」だって。
 ラスベガスって結婚の手続きがすっごく簡単で式場もいっぱいあるから、駆け落ちカップルとかがよく式をあげるんだよね。ジョークだってわかってたけど、思わずあせって
「グランドキャニオンに行くんだよ」って云った後、返された科白の意味を把握しかねて、とっさにその最後の言葉「Tomorrow?」をオウム返しに云ってしまった。
で、その瞬間さっきの科白が
「ああ、そう。その後結婚するんだ。いつ? 明日?」だったのに気付いたけれど、もう遅い。
「そっか、明日結婚するんだ」って云われて周りにいた人達に笑われてしまった。
「違うよ〜っ!」っていくら云っても
「だって自分で明日って云ったじゃないか?」って云われるし。
うーっ、おもちゃにされてしまった。
まったく、アメリカ人ときたら……
「じゃあ、アナタ私と結婚してくれる?」くらい云ってやれば良かった。



Episode69   ホテル探し
 ラスベガス経由でグランドキャニオンへ行こうと、一人サンフランシスコ空港に降り立った私は、乗り継ぎ便を待つ間公衆電話にへばりついていた。
 なぜかって?
 その日の宿を予約する為。ラスベガスのホテルは市外からかけられるフリーダイヤル番号を持っているところが多い。で、ホテルリストの宿代が安い所から順番に電話をかけていく。
 ところが……
 空きがない! 全然ない。どんどんホテルのランクがあがり続けていく。ひえー。
 やっと一軒、当日の夜だけなら空いている所を見つけた。予算より高いけど、仕方ない。
「予約をお願いします」というと住所を訊かれた。
 え? そんなもんがいるの? と思いつつ住所を云うと
「スペルアウトしてください」と云う。
 ええーっ!
 あわてて頭の中に住所のローマ字を思い浮かべる。
「……アイ……ダブリュー、エイ……ワイ、エイ……」
 その時住んでた所は住所が長かったんだよね。あーめんどくさ。ちょっと前まで住んでいた所は「将軍通り」という地名だったから、そこだったら
「Oh! Shogun!」とか云われて、うけたんじゃないかとか思った。その部分はスペルアウトする必要もなかっただろうし。今度から、電話でホテルの予約をいれる時は自分の住所をローマ字表記したメモを用意しておこうと思った。
 その後またあちこち電話して、最終日以外の宿を確保。予約とれなかった日はまた現地で走り回って探すしかない。
 んで、飛行機に乗ってラスベガスへ。
 レセプションで部屋の鍵をもらうとき「一人?」と訊かれてそうだと答えると、係りのおねーさんに握手を求められてしまった。
 なんで? そんな凄い事してるのかな、私?
 荷物を部屋へ放り込んで、街へ。とりあえず、スーパーを探す。
 疲れててさほど探索できなかったので、いい店が見つからなくて、豆缶買って冷たいまま部屋で食べました。
 ゴールデンナゲット(金塊)というゴージャスな名前のそのホテルにはデデーンとでっかい金塊がどっかに展示してあるらしいのだが、疲れ切っていて探すゆとりがなかった。



Episode71   空中遊覧
 ラスベガスからシーニック航空の主催する2泊3日のグランドキャニオンツアーに参加した。
 行きが昼過ぎラスベガス発、帰りが午前グランドキャニオン発という乗客が少ない時間帯の飛行機を利用したもので、料金が比較的安い。
 電話でホテルを伝えるとバスで迎えに来てくれる。
 マッカラン空港に着くと荷物ごと体重測定。飛行機が小さいので荷物の積み方がとても重要なのだそうで、座席はこの測定の結果を元に割り振られる。大きな荷物は空港預け。
 飛行機は普通より窓が大きな特注品だそうで、下を見る時邪魔にならないよう翼も高い位置にある。操縦士、副操縦士を会わせて21名乗り。もちろん、プロペラ機。乗務員は英語オンリーだけど、日本語の案内テープがあった。
 以前この飛行機に乗ったという人2人から
「2度と乗りたくないほど揺れた」と聞かされていたので覚悟していたら、快適快適。池に浮かべたボートみたいなもの。あの二人は余程気流の悪い日に乗り合わせたに違いない。
 モハーベ砂漠に拡がるミード湖、フーバーダムを過ぎてコロラド川をたどり、グランドキャニオン上空へ。
 テレビで何度か観た風景ではあるけれど、やっぱり実物はすごい!
 この景色の拡がり、空の透明感(湿気が少ないせいだろうね)、そして何より
「とうとう来たんだ!」という感動!
 あっと云う間の1時間20分。
 グランドキャニオン空港に着くとバスに乗り換えてナショナルパークへ。
 ヤバパイ・ポイントと呼ばれる所から夕陽の鑑賞。
 日が沈みきるとまたバスに乗ってアイマックスシアターへ。縦26メートル横35メートルの巨大スクリーンで35分間グランドキャニオンの映像を観た。
 あとはホテルへ直行。
 明日は朝からグランドキャニオンハイキングだ。



Episode72   タルキー?
 7時頃起きてホテルのカフェへ。
 ここでクーポンをピクニックランチに引き替える。が、レジにいた女の子にクーポンを見せると
「タルキー?」と訊かれた
 なんのこっちゃ?
 意志の疎通をはかろうと色々やってみたけれど、ダメ。何を訊いても「タルキー?タルキー?」と云われるだけ。
 うーん、困った。とうとう女の子が奥の厨房へ入ってしまった。
 見捨てられた? と思っているとアレ? スペイン語が聞こえてくるぞ……
 と、さっきの子が別の女の子を伴って戻ってきた。新しい子が
「ハム or ターキー?」と訊いてきた。
 なるほど、サンドイッチの中味をハムにするか、七面鳥にするか、と訊かれていたのね。スペイン語はほぼローマ字読みに近いからturkeyがタルキーになまるわけだ。
 前にスペイン人と話した時もtouristがトウリスト、sonがソン、Fordがフォルドになった。ちょっとしたクイズだ。でも、英語そのものがこういう発音だとわかりやすくていいんだけどね。
 問題が解決したので5分程待っていると、チョビヒゲのいかにもメキシカンって感じのおじさんが紙製のランチボックスを持ってきてくれた。
「グラシアス(ありがとう)!」って云ったら
「デナーダ(どういたしまして)」って云ってくれた。
 なんかすごくうれしかった。



Episode73   自己責任
 グランドキャニオンのブライトエンジェルトレイルと呼ばれる遊歩道には出発点から1.5マイルと3マイルの所にレストハウスがある。レストハウスといっても、屋根とベンチと水道があるだけ。公衆電話もなくて、にっちもさっちもいかなくなった時の為にレンジャーに連絡する緊急用の電話のみ。
 だいたいトレイルの入り口に「ここから先は水と食料なしで降りることを禁ず」なんて立て札が立っているくらいで、ものすごーく危なそうな断崖絶壁にも柵があるでなし、「危険」の札があるでもない。
 すべて、自分の責任で勝手にやってくれ、っていうスタンスだから。
 でも、どーしても自力で帰れなくなって、レンジャーに連絡したとしても、そこに通じているのは車の通れない細道だけ。
 で、どうするかっていうとレストハウスの天井にボート型をした金属製のカゴがぶらさげてあって、それに乗ってヘリコプターでつり下げられて帰還、という事になる。
 すごく怖そう。
 おまけに費用はすべて自己負担。
 ヘリ一機飛ばして、レンジャー隊員数人のお給料払ったらいくらになるんだろう?



Episode74〜77   コロラドリバー ラフトツアー
 ホテルのフロント脇に椅子が並んでいて、朝行くと、いろんなツアーに参加するためにバスを待っている人達がたくさん座っていた。
 予定より20分遅れでグレイラインという私が参加するツアーを主催している会社のバスがきた。一旦そのバスでグレイラインのオフィスへ行き、参加代金を前払いしてなかった人はここで料金を払う。風日は前日にホテルで支払い済み。何台かのバスでラスベガス中のホテルからピックアップされてきた人達が、それぞれの参加するツアー名が書かれたバスへと乗り換える。
 風日のバスの運転手さんは女性。運転しながら軽快な口調でガイドもする。
 ネバダ州で唯一ギャンブルが御法度ごはっとの町ボールダーシティを通ってとある土産物屋へ。
「ここでトイレを済ませておくように。この先、昼食場所までトイレはありませんよ」
 というガイドさんの言葉に、いっしょに乗っていたおばちゃん達は
「私、しぼりだしておくわ」
 なんて大きな声で話している。女性用トイレの中だから、別にいいけど……
 横腹にブラックキャニオンと書かれたマイクロバスに乗り換えて、ガイド兼運転手もポールというおじさんと交代。
 ポールのおしゃべりを楽しんでいるうちにフーバーダムに到着。バスを降り、細い坂道を通って河原へ。
 バナナみたいな形の銀色のゴムチューブとプラスチックの板をいかだみたいに組み合わせたモーター付のボートが待っていた。

「ひやっ!」
 ボートの底はすのこっぽい感じで水がはねる。靴を脱いで乗り込むと水の冷たいこと!
 さすがロッキーの雪解け水。
 フーバーダムにはトンネルがあってボートは最初そっちにむかっていく。
 あれ? 川をくだるんじゃなかったっけ?
 ポールが何か云っている。大声をだせって云ってるみたいだけど、英語が理解できない。と、
「ワン、ツー、スリー!」
 ポールの合図でボートに乗り合わせた人達がいっせいに「ワーッ!」っと声をあげた。
 WOW!!WOW WOW WOW WOW WOW……
 暗いトンネルに吸い込まれた声が谺になって響き続ける。
 なーる程そういう事か。アメリカ人っていくつになっても無邪気でみんな凄くはしゃいでる。
 さて、音がおさまったところでボートは方向転換。
 もう一台のバスでやってきた女性ガイドの操るボートと連れだって静かな川面を滑るように下っていく。
 両岸の風景を楽しみながらのんびりゆったり。でも川水の冷たさとは対照的に日差しが強くてとても暑い。たまに日陰に入るとみんなすごく喜ぶ。
 途中、一ヶ所だけラピッズ(急流)があった。ポールが「ラピッズ」と口にしたとたん、期待と不安で船上がざわつく。
 さァ、いよいよ!
 ちょっと見にはそんなたいした流れに見えなかったんだけど……
 ザッパァ――ンッ!
 頭から水かぶっちゃった。すぐ乾いたけどね。でも、カメラを防水袋にいれてて正解。
 乗客ははしゃぎまくって、後ろからくる女性ガイドのボートがラピッズを抜けるのを見たいと云いだした。ポールが舟を停め、さァ、来るぞ! とみんながじっと見守るなか……
 悲鳴とも歓声ともつかない声があがり……
 女性キャプテンは「私のボートじゃ誰もずぶ濡れにならなかったわよ」と云って通り過ぎていった。
 ポールぅ、ひょっとしてわざと濡れるように通ったんじゃないの?

 途中の砂浜にボートをつけて、遊んだ。
 サラサラの砂が素足に心地いい。せっかくだからと、ポールにいっしょに写真にはいってと頼んだ。
「これだからガイドはやめられないね」なんて云って快くOKしてくれる。
 傍にいたおばさんにカメラを渡して撮影をお願い。ポールと並んで立つと、いきなり腕を腰に回されてピッタリくっつかれてしまった。(その写真は写真館にUPしてあります)
「サンキュー!」と云って離れようとすると
 ポールに「もう一枚」と云ってひきとめられる。更に「こっちむいて」と云われてポールの方を向くと、突然私の顎にポールの右手がのびてきて……
 え?! ええ――っ?!
 クイッと持ち上げられた顎にポールのキスが!
 とっさの事に思わず目をつぶってしまった。もちろん、そのシーンはばっちり写真に写っている。はうう……
 もうビックリしたのなんのって。
 唇のすぐ下のところだったんだもん。せめて、ほっぺとかおでこくらいにしといてよ。写真だけだとマウストゥマウスのキッスに見える。
 なんていたずら好きなおっちゃんだ。

 衝撃のキッスから立ち直った風日は他のツアー参加者とおしゃべり。って云っても風日の英語力じゃたいした話はできないけど。
 日本とアメリカの違い、って話題の時に、
「日本の犯罪発生率はどのくらい?」と訊かれて、そんな数字わからないからなんて応えようかと悩んで、時間稼ぎに
「クライム……?」と聞き返した。
 そしたらクライムって単語の意味がわからないと勘違いされたらしい。
「ヤクザ」と云い直してくれた。なんか笑える。
 歓談タイムが終わってまた川をくだっていく。
 昼過ぎにウィロウビーチリゾートに到着。
 リゾートっていっても、レストラン兼土産物屋兼ボートのレンタル屋さんの建物と、桟橋にずらりと並んだハウスボートがあるだけ。パンフレットによればそのハウスボートには冷蔵庫2、ストーヴ(日本でいうコンロ)、オーブン、電子レンジ、ゴミ圧縮機、製氷器、エアコン、ステレオが完備されているらしい。
 あと目についたのは水鳥とスキーボート。この辺りで釣れたという大きなレインボートラウトの剥製はくせい
 ツアー料金に含まれている昼食をとって、パーキングに行くと最初に乗っていた大型バスが待っていた。車窓からもう一度フーバーダムを見学しつつ、ラスベガスへ戻る。
 ホテルに帰り着いたのは4時頃だった。




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