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今夜の番組チェック
おかしなやつら 2
樹似はとってもボーッとしている。
どれぐらいボーッとしているかというと、電車で本を読んでいて降りるべき駅を通り越してしまった。ま、ここまではよくある話かもしれない。が、反対方向への電車に乗り換えて、また、降りる駅を通過してしまう人間は少ないだろう。
ある日、私は樹似が遊びに来るというので、家で待っていた。が、待っても待っても樹似は来ない。電話1本かかってこない。なんて非道[い奴だー。後日、
「なんで来んかった?」と訊いた私に
「○○へ行った後で行こうと思っとったんやけど、急にいけんようになった」と云う。
それはそれでいい。そういう事もあるやろ。しゃあけど、なんで電話1本かけてくる事ができへんの?
「アドレス帳持ってなかったから」
そしたら、自分の家に電話して親にアドレス帳見てもらうとか、番号案内に問い合わせる(当時私は一人暮らしだったので、私の名前で電話帳に載っていた)とか、すればエエやんか。
「そうか、その手があったか!」
まるですごい名案のように膝を打つ樹似。当たり前や。常識のないやっちゃな。
私はあの日1日中ずーっと事故でもあったんちゃうやろかと心配しながら待っっとったんやで。来ないってわかってれば買い物にでも行ったのに。ぶつぶつ文句を云う私に樹似はとうとう開き直り、云い切った。
「私やで。そんなん思いつくと思うか?」
妙に納得させられる力強い口調。
しかし、ボーッとして気がきかんってのを免罪符にして振りかざすとは、エエ性格してるやん。
神さんは中学・高校時代、教科書はパラパラマンガを描く為にあると思っていたみたいだが、社会人になって、しなくてよくなると勉強したくなったらしい。
しばらく英語の勉強をしていたかと思うと、英検3級を受験して合格した。ファミレスで友人にその話をしていたある日。
「で、次は2級受けるの?」という友人の質問に
「いや、英語はもうあきてきたから次はヨーロッパ語でも勉強しようと思って」と答える。
初めは神さんらしい冗談だと思って聞いていたその友人は話の流れの中でふとコーヒーを飲む手をとめた。
「ちょっと訊くけど、ヨーロッパ語って何?」
「え?! だから、ヨーロッパで使われてる言葉やろ?」
そう、彼は冗談でもなんでもなく、本気でヨーロッパ語を勉強しようと思っていたのだ。二十歳過ぎたその時まで神さんは北ヨーロッパとか南ヨーロッパという国があって、そこではヨーロッパ語というものを話している、と信じていたのである。
授業中に絵を描いていたおかげで、今は立派にアニメーターとしてやっていけているのかも知れない。確かに、魚偏の漢字をいっぱい知ってるとか、歴代天皇の名前を云えるとか、円周率を20桁以上云えるとか、おかしな知識も豊富だ。
だけど、もうちょっと常識を身につけておくべきだったと思うよ、神さん。
「カエルの子はカエル」「眠り姫」でネタを提供してくれたのこだが、今回はその、のこの科白で印象に残っているふたつを紹介したい。
のこの娘が幼稚園ぐらいの頃、当時再放送されていた「サイボーグ009」を観て、009に夢中になった。娘が「私の009」というような意味の事を口にすると、のこは
「アカン!009はおかあさんのや。アンタにはやらん」と云ったという。
私がのこの家へ遊びに行った時、子供達がケンカをして部屋を走り回っていた。団地住まいの為、階下の部屋に気を遣っていたのこは直ぐさま子供達をしかったけれど、効果がない。
パッシィーン!
あっ! と思った時にはのこの平手が娘の頬に飛んでいた。痛みに泣き叫ぶ娘にむかって放たれたのこの科白。
「恨むんやったら手の早い母親の元に生まれてきた自分の不幸を恨め!」
と、こんな風に書いたけど、のこはとっても子煩悩。新聞配達とファミレスのバイトで女手ひとつで子供達を立派に育てている。子供達ものこを気遣ってよく家事を手伝っていると聞く。
BUT 私がのこの「009はおかあさんの……」発言を友人Sに話したところ……
「何ゆうとんや、ジョーはわたしのもんや。誰にも渡さへんで」という言葉が返ってきた。
どうして、私の周りってこういう人間ばかりなんだろう……
樹似が合宿で車の免許を取ったという。
30過ぎてから習ったんだから大変だっただろうとは思う。しかし、マニュアルコースだったハズなのに指導員から
「やっぱりマニュアルでないとダメですかね?」と云われてオートマ限定コースに変更した、というドン臭さ。
そのくせ、私が「運転に慣れたら車でうちへ遊びにおいで」(樹似の家と私の家は車で40〜50分の距離)と云うと
「大丈夫、もう慣れた」なんて豪語していたのだ。免許とって一ヶ月とたたないうちに。
さて、彼女が強気な発言をして半月もたっただろうか?
「車をぶつけた」と云う。
しかも、真正面!ちょうどナンバープレートの真ん中辺りがボンネットまで歪む程直角にへこんだ、と云うのである。
「直角ぅ……?!」
幸い運転していた彼女も同乗していたお義母さんもかすり傷ひとつないとの事。だが一体どうやって車体にそんなへこみを作ったのか?
川沿いに車を走らせていた彼女は橋を渡ろうとハンドルを……きり損ねてあわや欄干に激突、一歩手前でブレーキを踏んだ。かすりそう、ならともかく、欄干が正面にくるような曲がり方をしようとした時点で「もう運転やめとき」と云ってやりたいようなドライバーだが、折角未然に防いだはずの事故をギアをバックに入れ直す前にブレーキから足を放す、というミスで引き起こしてしまったのだ。
当然スピードはメーターの針が振れないくらい遅いから衝撃という程のものはなく、ただ
「あ――っ!」
と云っている間に車が前進し、正面にあった欄干の角がメキメキと車体に食い込んで……
あまりの恥ずかしさに彼女はお義母さんを家に送り届けるなり、修理工場へと車を持ち込み、証拠隠滅[をはかったという。
高校生の時、神さんは放送部員だった。
放送部員というのは意外と巻き尺をよく使用するそうだ。体育祭だの球技大会だのの催しの度に、設置するマイクから放送室までコードが何メートルいるとか、そういう事を事前に調べなければいけなかったらしい。だが、その巻き尺はいちいち体育教官室に借りにいかなければならなかったとかで、どーも苦手な体育教師がいたらしい神さんは思った。
「巻き尺を使わなくていいように三角測量器を作ろう」と。
このへんの発想がよくわからないのだが、幸い、神さんの実家は鉄工所をやっていた。お父さんにバーナーを借り、薄い鉄板や鉄線を溶接して苦労の末にそれらしき物を完成させた神さんは勇んで運動場に向かい、力作を取り出した。
しかし……
うれしそうに測量し、電卓を叩いた神さんは測量器上のほんの1ミリの誤差が数メートルも計算を狂わす事に気がついた。機材は手作り、しかも、三脚も使わず腕で支えて測ったのだ。数ミリ程度の誤差が出て当然である。
「こら、アカン」
数センチならともかく、数メートルも違えば今回の目的には使えない。彼の苦労は水泡に帰した。
後日、私にその話をしてくれた神さんは云った。
「でも、数学の先生は『ちゃんと三角関数を理解できてる』って誉めてくれたで」
あはは……風日は三角関数理解できていません。「ムサイ・コムサイ・タンジェント」なんて云って遊んでおりましたもので。
「茶煙草のんで煙草茶にしよう」
神さんが高校の放送部で滑舌[の練習に使っていた言葉だ。一種の早口言葉なんだけど、私は神さんから聞くまでこんな言葉は知らなかった。それはさておいて。
常に子供のように素朴な疑問を持つ事のできる柔軟な思考回路の持ち主である神さんは『茶煙草』及び『煙草茶』なるものに興味を抱いた。一体それはどういう物なのか?
子供のように単純な思考回路の持ち主でもある神さんは『お茶の葉を巻いた煙草』と『煙草の葉で煎れたお茶』を想像した。が、子供のように好奇心旺盛な神さんは想像しただけでは飽きたらず、それを作ってみようと思い立った。
しかし……
「ちょお、待てよ。俺は未成年やからなぁ」
日本の法律では二十歳未満の喫煙は禁止されている。とっても真面目な神さんは茶煙草や煙草茶を作って自分がそれを試してみるのが法律に触れるのではないかと危惧[したのだ。
六法全書を引いてみる。なんだか難しい事が書いてあった。
よくはわからないが、大丈夫だろうと結論した神さんは早速お父ちゃんの煙草を一本もらい、慎重に紙をはがして、煙草の葉を取り出し、かわりに緑茶を包んで茶煙草を完成させた。
ちょっぴり大人の気分に浸りながら、くわえて、火をつける。
お茶のいい香りが拡がった。結構いけるやん、と調子づく。
ほぐした煙草の葉を急須に入れ、お湯を注ぐ。湯飲みについだ煙草茶は煙草の臭いがたちのぼる、なんとなく不気味な褐色。
恐る恐る舐めてみる。
「☆▽○XXX――!」
その時神さんが発した音声がどんなものだったのか、私にもわからない。ひょっとすると声すらたてられずに青くなっていた可能性もある。ただ、云えるのは煙草茶が命に関わるような代物だという事。ちょっぴり舐めただけだったので事なきを得たが、みなさんは決して真似しないように。(しないって、フツー)
神さんもこう云っていた。
「あの時は死ぬかと思った」と。
中学で確率を習っていた時、数学教師が云った。
「コインを投げて表がでる確率は2分の1。裏がでる確率も2分の1」
が、教えられた事を鵜呑[みにする事なく、様々な事に疑問を持つ事のできる神さんは思った。
「そんなんおかしい。コインには厚みってもんがあるんやから、『立つ』事かってあるはずや。どっちも2分の1っていうのは違うんちゃうか?」
自分の授業にケチをつけられた教師は云った。
「ならコインを投げて立ててみろ」
よっしゃ!
神さんは10円玉を投げた。投げて投げて投げまくった。もう、暇さえあれば投げ続け、焦げ茶色だった10円玉が手で擦られてピッカピカに光るまで投げた。
そして――
「スミマセン。立ちませんでしたっ」
数学教師に謝りにいった神さんだった。
かみつくと硝[は風日と中学が同じで二人ともアニメファンだった。
で、よくテレビアニメの音声をカセットテープに録音して(当時誰もビデオデッキを持っていなかった)シナリオに起こし、無理矢理引っ張り込んだ数人といっしょに声優気取りでシナリオをテープに吹き込んで遊んだりしていた。
中学3年のお正月――
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ!何故だ?」
バッシィーン!
「……坊やだからさ」
「ちぇーっ、それ狙っとったのにィ」
厚紙を切り、紙テープで縁をつけ、マジックで上の句と下の句に分けたガンダムの科白を書き込んで……出来上がった『ガンダムかるた』で我々は遊んでいた。
百人一首の要領で読み手が前半の科白を読み、場にばらまかれた後半の科白が書かれた札を取る。そして、首尾良く札をゲットした者がキャラクターになりきって科白を読み上げる、という遊びだ。
神経衰弱もやった。もちろん、めくった札の科白は声に出して読む。
めくり方によっては、笑ってしまって、ちゃんと下の句が読めないような組み合わせになる事もあった。
で、それにも飽きてくると……
「ブラッディ・カード!」(と、主人公が叫んで武器であるカードを投げる小説がある。アニメもあるけど、当時はまだできていなかった、と思う)
みんなで手裏剣のように札を投げまくり、家具の隙間にでも落ちてしまったのか、最期に数えてみると足りない札がある始末。
そう、これが高校受験を間近に控えた中学3年生の風日のお正月だった。みんなちゃんと志望校に受かったからよかったけどね。
えーっと、ガンダムの科白、もし間違ってたらごめんなさい。もう何年もビデオも観ていないもので……
「あれ?」
旦那といっしょに電車から降りた樹似は切符がない事に気付いて愕然[とした。
「確か手にもっとったと思たんやけど……」
バッグの中、ポケット、財布の中……色々探したけど、みつからない。
「うわー、切符買いなおさなあかんかなぁ?」
泣きたい気分で溜め息をつき、あきらめかけたその時。
「それ、何?」
旦那が指差したのは樹似の腕時計。
「何って……あ!」
時計のバンドの下からのぞいていた、それは……
「切符! こんなとこに」
そう、あれ程探してみつからなかった切符が腕時計のベルトにはさんであったのだ。
よかった、よかった。
に、しても……。珍しい事をする奴である。それまで、そんな事をした事はなかった、とは云ってたけど。
注)これは事実に基づいたフィクション、というか旦那さんと樹似の科白は風日の想像です。ごめんなさい。
朝、ふと見ると旦那がパンツ一枚の格好で新聞を読んでいた。
別に珍しい事ではない。ジョギングの後、着ていたTシャツと短パンを脱いで、しばらく涼んでいる事は。
が、その日は風日はあったか肌着にトレーナー、室内用のチョッキまで着込んでいた程寒かった。
「寒ないん?」と訊くと
「寒い」という返事。
「なんで服着ィへんの?」
「取りに行くん、めんどくさい」
あのなァ……。仕方がないのでトレーナーを取ってきて渡す。ズボンの方は
「それは立たなアカンからエエわ」
寒いんやろ? 鳥肌たってるやん。と思いながら、はんてんを取ってきて着せかけた。まったく。
夜だってそうだ。
旦那は基本的にパンツ一枚で寝るのだが、風呂あがりにその格好でビールを飲みながら、雑誌を読んだりする。寒くなってもバスローブすら、はおろうとせず、鳥肌立てて震えながら我慢している。どうせすぐに脱がないといけない服を着るのが、面倒くさいのだ。
で、つめたーくなった身体で布団に潜り込んでくるものだから、風日は時々
「ひえェ〜っ!」
と悲鳴をあげるハメになるのだった。
樹似から電話があった。
ネタを提供してくれるという。ありがたく聞いてみることにした。
樹似は最近、朗読ボランティアというものをやっている。目の不自由な方の為に本や雑誌などを朗読してテープに吹き込むってやつ。
で、ある日その樹似のところに一枚のハガキがまいこんだ。なんだかひどく汚い字で読みにくい。が、なんとそれは筋肉の病気でかろうじて読み書きはできるものの、話すことも書く事も何もかもが困難という方からの朗読テープに対するお礼状だった。
樹似は感動した。ギャグっぽいマンガなら両手を組み合わせて目をキラキラさせバックに花なんかしょって
「ああ! 朗読ボランティアやって、よかった!」というところだろう。
差出人は話をするのも困難という事で、電話ではなくハガキでお礼状のお礼状(?)を出そうと思った。しかし、普通のハガキではおもしろくない。
ふと、少し早いがクリスマスカードを送ろうと思い立つ。文具屋にはクリスマスカードが並び、ショーウィンドウはクリスマスデコレーションになっている。構わないだろうと。
選んだカードにメッセージを書き、封筒に入れる。
ああ、クリスマスにふさわしい心温まる話だなぁ、なんてうかれながら封書をポストに投函し、回れ右して3歩あるいた。
あ――っ!
自分のやってしまった事に気付いて愕然とした樹似は通行人の見守る中、思わずしゃがみこんでしまったという。
ガ――ン!
という鍵盤を叩きつけるようなピアノの効果音が聞こえていたかもしれない。
50円切手はってもた。
「なんで? 切手はり忘れたって方がまだわかるで?」という私の質問に
「だって、ハガキもらったからハガキ、ハガキって思ってて、それにちょうどきれいな50円の記念切手があったんやもん。ああ、これエエわ。これにしよ、これにしよ。こんなきれいな切手があるなんてラッキーと思って……」
結局、樹似は封書の宛先の方と親交のあるボランティアの先輩と連絡をとり、先方に謝ってもらったそうだ。
前半は心温まるちょっといい話だったんだけどねェ……