猫馬鹿嘘話
「ニャン……」
白猫が一匹、大きな図体に似合わへん
高
[
たこ
]
うてか細い声で鳴いた。
「ニャン!」
異口同音に二人の男女が猫に応える。
「アン……ニャニャッ……」
きれーなブルーの瞳で何事か訴え続ける猫のかたわらで、男女は顔を見合わせた。
「オレら、
傍
[
はた
]
から見とったらまるっきりアホやな」
猫の鳴き声に鳴き真似で応えるやなんて、いっつもやっとう事やのに、連れ合いが自分とおんなじ行動とるのんを見て急に恥ずかしなったらしい。そう二人は夫婦や。
「うるるる……うにゃん」
「どうしたん? いっぱいにゃ、
掻
[
か
]
いて欲しいの?」
鳴きながら近寄ってった猫に嫁さんの方が話しかける。
白猫の名前はイッパイアッテナってゆうんやけど、嫁はイッパイしゃんとかイッパイにゃんとか呼ぶ事のんが多い。甘えたニャやブタニャン(イッパイアッテナの名誉の為にゆうとくけど、彼は決してブタ猫やないで)王子様、坊ちゃんとか、色々そん時の気分で好きなように呼んどうみたいやけど。
「ゴロゴロにゃん、ゴロゴロにゃん、そう、気持ちエエの……」
「あ、みやびさん登場」
腹だしてゴロンと転がったイッパイアッテナを掻いてやってる嫁の横で旦那が呟いた。
ロフトから器用にはしごを降りてきた「みやびさん」はこの家におるもう一匹の猫や。ミックスってゆうても両親共に血統書付きやったイッパイアッテナとちごて、何十代も続いてそうな雑種。そんでも、嫁が可愛いゆうて一目惚れしたくらいやから、それなりに美猫やわ。この家ではなんでか「さん」づけで呼ばれる事が多い。
まあ、嫁の方はやっぱり、みーにゃん、みーしゃん、にみゃ、みーや、お嬢、みーちょんちょん――下手すりゃ、みしゃ、みしょ、みそ、なんて好き勝手呼んどうようやけど。
床に降り立ったみやびが、赤い首輪の鈴をチリチリ鳴らしながら後ろ足で首を掻く。そんでしんどそうに首曲げて逆立った毛並を整えてから、右の前足をペロペロやって顔をクルッと撫でた。彼女はメッチャおしゃれできれい好きなんや。
ようやっと納得がいく身づくろいができたんか、とことこと嫁の方に近寄っていった。イッパイアッテナもみやびも嫁の方に寄っていく事が多いんで、旦那はかなり
嫉妬
[
しっと
]
してるみたいや。
この旦那、アニメーターなんてヤクザな商売やっとう上に、土地の安い田舎に家建てて会社が遠なったもんやから家で仕事する事が多い。で、いっつも家におるのに猫共が嫁さんとばっかりいっしょにおるもんやから、仕事の合間に
「イッパイアッテナー」
って猫なで声だしたと思たら、嫁の横で気持ちよう寝とうイッパイアッテナを
拉致
[
らち
]
していっしょにトイレに入ったり、そのまんま仕事部屋の方に連れていったりしよる。大抵はそのまんま部屋におってもらえんと、どっか行かれてまうんやけど。
みやびが嫁から三十センチ程離れたとこで止まりよった。ちょこんと座りこんで、うるうる、って目ェで嫁を見よる。
このお嬢、もと野良猫やったもんでやたら警戒心が強い。よっぽど人間に怖い目ェにあわされでもしたんか、もう長い事この家におるクセにまだ人間の膝に乗ったり、抱き上げられたりするんが怖いらしい。しゃあけど体掻いてもらうんは大好きなもんで、時々そばまで行ってじぃっと嫁の顔見てたり、これ見よがしにまわりをグルグル回ったりしよるんやな。
イッパイアッテナやったらうるそう鳴いたり、後足で立ち上がって前足を嫁の体に寄りかからせたり、ほとんど頭突きに近いようなスリスリ攻撃をかけたりするとこやねんけど。
そんなみやびも掻かれ始めりゃ腹上にしてゴロゴロゆうてほっぺたすりつけられたり、肉球ぷにぷにされたりしても大丈夫なんやから、そないにビクビクせんでもよさそうなもんなんやけどなァ。
「みやびさん掻いて欲しいんやったらもっと傍においで」
嫁が片手でイッパイアッテナを掻きながら空いてる方の手ェで縦に二つ折りにして古びたベッドカバーでくるんだ布団を叩く。どうやら古い布団を長座布団がわりにつことるらしい。こんな二十年も打ち直しすらしてへんようなせんべい布団なんぞポイしてローソファかなんか買やエエのに。
そういや、こないだみやびがこのベッドカバーと布団の間に入り込んで、モコモコ移動しとったんをイッパイアッテナがカバーの上からどついて追いかけ回して、目隠し状態で逃げ回ってる間にみやびはどっから入ったんかわからんようになったらしいて、イッパイアッテナが
飽
[
あ
]
きてよそへ行ってしもてからも、モコモコした
塊
[
かたまり
]
が右へ左へ移動してるんを見て嫁が笑いながら出してやってたっけ。
「みにゃみにゃ」
みやびがよう寄っていかんとローテーブルの足にスリスリしだしたんで嫁が手ェ伸ばして
顎
[
あご
]
の下を掻いてやる。
「あ、こら、アンタは寝とったらエエのに……」
みやびが構われるのが嫌やったんか、みやびを構われるのが嫌やったんか……。イッパイアッテナがむくっと起きあがってみやびを
舐
[
な
]
め始めた。そしたら……
「あーあ、みやびさん行ってもた」
みやびは嫁と自分の間にイッパイアッテナが割って入ったら大抵どっかへ行ってしまうんや。ごくごく稀にみやびが嫁とイッパイアッテナの間に割ってくる事もあるけど、まあ、すぐにイッパイアッテナに追い払われる事が多いな。逆にイッパイアッテナがフイッとその場を離れる事もあるけど。
さて、今日はこれくらいにしとこか。
え、これは一体なんやって?
さあなァ、猫バカによる猫バカの為の読み物? 限りなく事実に近いフィクション? 読んで損したって思わされたただの駄文? なんでも好きなん選んでえや。
そんで、今日はこれくらいゆう事は続きがあるんかって?
さあなァ、それはアンタら次第やな。誰かが続き読みたいゆうたら、そのうち……
霜月楓さんにリクエストされたのが、「猫のいる家のショートショート」。「うわっ! SSなんて風日の一番苦手なものを〜っ!」という事でストーリーもオチもない、「Episode猫ばなし」の拡大版のようなもので許してもらいました。しょーもない代物ですが、折角書いたんだからどこかにUPしたい。でも、これを小説と云って「迷語さがし」に加えるのはいくらなんでも……と思ったので、「ねこ部屋」に入れちゃいました。
猫好きの方達ならきっと笑って読み飛ばしてくださるだろうと……
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