
猫馬鹿虚話U
猫馬鹿虚話 U
猫のパーは滅多に見られない
横向きかあお向けで寝ころんだまま伸びをした時とか
歩いてる途中で片方の前足を宙に浮かせ、グウッと前に伸ばした時とか
指の間を舐[めている時とかしか
でも猫のチョキはもっとずっと珍しい
きっと見た事がある人はほとんどいないはず
だから猫とジャンケンをする時は
パーをだせば必ず勝てる
「変なもの書いてるな」
嫁はイッパイアッテナが話せたらきっとそう言われるやろな、なんて思いながらキーボードを叩く。
「バカじゃないの?」
みやびならそう言うかも? とも思う。
みやびとイッパイアッテナはこのうちの王女様と王子様。
赤い首輪のほっそりとした錆二毛がみやび。鼻は上半分が黒で下半分がピンク。しっぽは長くてシマシマ、先っぽがちょっとだけ曲がってる。うねうねクニャクニャ、それだけ別の生きもんみたいに動きよる。
真っ白のセミロングヘア、ピンクの鼻、青い瞳、ちょっぴりカールしたピンクの耳(耳ん中にかなり長い毛ェがはえとう)、ふさふさしっぽの体格のいい洋猫がイッパイアッテナ。
しっぽはパッタンパッタン……犬みたいにぶきっちょにしか動きよらん。動物病院に連れて行くと診察台にのせられたとたん股の間に収納したしっぽがまっすぐのびた状態でピタッと腹にはりついた様子が笑える。
首輪は瞳に合わせてブルー。
耳がカールしとんのは親父さんがアメリカンカールやから。お袋さんはターキッシュバン。どっちも血統書付きで随分高い値段で売られとったらしい、けどミックスのイッパイアッテナはただでこの家にもらわれてきた。
王女と王子にかしずくんは詩ィとか小説とかいう訳のわからんもん書くのが趣味の嫁とアニメーターとかいうこれまたやっぱり訳のわからん仕事やっとう旦那。子供はなし。
イッパイアッテナは今、嫁がつこてるノートパソコンが入っとったラバー製のパソコンバッグの上にのっかってる。っていうか嫁がパソコンつこてる時のイッパイアッテナの定位置がそこっちゅう感じやな。しゃあから途中でフロッピーとか出そ思ても、出せんと
「まあ、エエか」
っちゅうてあきらめる事も多い。
「どいて」
っちゅう事ももちろんあるけど。
大体イッパイアッテナは甘えたで、嫁がおるとこへついて回る事が多い。そんでもって嫁がパソコンの電源を切ったり、テレビのスイッチを切ったり、読んどった本を置いたりしたとたんに
「うるる……」
っちゅうて嫁の注意を惹[こうとする。
そう、イッパイアッテナが
「にゃーん」
なんて猫らしい鳴き方したん聞いた事ないな。
うにゃ
うーるん
あんっ
って感じやろか、
うーっ!
つってとんでもなくドスのきいた声で唸ってんのん聞いた事もあるけど。
旦那に茶出す時間や思て立ち上がった嫁の足下でイッパイアッテナが騒ぎ始めた。大体なんか用事しよ思て立つとアンアンうにゃうにゃ騒ぎよるんや。
「何? どうしたの? 甘えたにゃん」
イッパイアッテナが後足で立って嫁のジーパンで爪とぎするような(もみもみかも知らんけどたまに爪が出てる)ポーズをとったんで、嫁が抱き上げて肩に担ぐ。頭掻[いてやったり、尻のあたりをポンポンしたりしながら
「よしよし……」
ちゅうて部屋ん中歩き回る。
イッパイアッテナはゴロゴロ喉をならしておとなしゅう肩にのっとんやけど、不思議なもんで歩くんやめたらアカンねんな。前に嫁が姪っ子あやした時もそうで、抱いてウロウロしてる間はエエんやけど、しんどなって座ったりしたら怒りよんねん。ホンマ、かなわんわ。
とりあえず、イッパイアッテナをおろして水をいれたヤカンを火ィにかける。で、その間にトイレや。イッパイアッテナもトットットッとついて入って便座に腰掛けた嫁の膝にあがりよる。最初、前足だけ膝にかけて
「うるっ」
っちゅうて嫁に顎の下とか掻かせてから、ひょいっとのっかりよんねんな。足場を確かめるように2、3回クルクルッと回ってからまるうなる。
腹冷やしてトイレで頑張っとう時なんかはカイロがわりになってエエんやけど、普通の時にやられると困る。いや、別にこんなん降ろしてしまえばエエんやけど、王子様が気持ちよさそうにくつろいでらっしゃるのを邪魔するのはどうも……。
まあ、結局は降ろすんやけど。
トイレのドアを開けたらみやびがビックリしたように飛び退いた。
トイレの前は割とみやびのお気に入りの場所らしいて、そういう事は珍しない。
みやびはイッパイアッテナが甘えたで厚かましいんと対照的に一人遊びが好きな臆病もんや。
成猫になるまで野良やったから警戒心強いんはわかるんやけど、ちょっとした物音にもビクッと跳び起きたり、身体掻いて欲しいて昼寝しとった嫁が起きたとたんに走り寄ってくるクセに自分の方に伸ばされた手ェに怯えて逃げかけたり。
怖い――でも掻いて欲しい――でも怖い――だけど掻かれるの好き
ちゅう葛藤が嫁の前で行ったり来たりする様子によう表れとうわ。難儀[なやつ。
そのクセ掻いてる間やったらほっぺたスリスリとかしても大丈夫なんやで。
股ぐらに人間の手ェをはさんだり、尻の下に手ェをしいて座るんも好きやし。
掻かれてるとようコロンと横になって後ろ足の間に手ェを挟むんやな。その状態で腹やら喉やら掻いてもらうんが気持ちエエらしい。そんで人間の方が掻くんしんどなって動きが鈍なってくると股ぐらに手ェはさんだまんま香箱組みよるねん。
変やろ?
人間怖ぁて、寒うてイッパイアッテナが膝にのったり、布団にもぐり込んだりするような時でもおんなじようにようせんのに人間の手ェ敷いて寝るんが好きやなんてな。
掛け布団の上からやったら平気で人の上に乗りよるし。テーブルの下におる時でもちょっと人間が動いたらテーブルに頭打ちつけるほど飛び上がって逃げる事もあるのに、布団越しに人間の上に乗ってると多少寝てる人間が動いても平気で寝てる事もある。
さて、いつまでこんな話ししとっても埒[があかへん。
今日はこれくらいにしとこか。
ほな、機会があったらまたいつか。
1周年記念の宝探しの賞品として紗都観さんにリクエストされたものです。
あちらのHPで公開するという事なので、猫馬鹿虚話とダブる事にはなりますが、あえて猫達や下僕達(笑)の紹介から書きました。こんなものを欲しがってくださった紗都観さんに感謝。 |