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今夜の番組チェック

星降る夜は……




 今日の僕達は最高にハッピー気分。
僕、如月きさらぎ 星夜せいやと彼女、はるか 瀬水せなは午後からデートしているんだけど、目一杯ムードが盛り上がっちゃってるワケ。
 そして、偶然にも――ちょっとウソっぽいかなァ――僕達が歩いているのはホテル街だったりなんかして。
 ひょっとしたら……いや、多分……今夜の彼女なら……でも、もし……。
 ってな思考がさっきから僕の頭の中を駆け巡っている。ったく、じれったい!
 ここで決断しなけりゃ男じゃないぜ。こんなチャンス、そうそうころがってるもンじゃあない。いつまでも童貞の看板さげて歩くわけにもいかない事だし。
 で、僕は左手で瀬水の腰を抱きながら、気付かれないように右手でポケットの中の財布をまさぐり始める。右利きの僕が何故左手を彼女に回すのか?それはいつでも利き腕を使えるようあけておく為なのだ。ワッハッハ、ハードボイルドだぜ。
 と、ここまではよかった。すこぶる、実に、まったく……。
 だが、しかし、だ。
 今更ながら世の中とはかくも冷たいものだったのだ、と思い知ってしまう。ああ無情……。
 僕の財布の中には……なんと総額! 二千円しか入ってなかったのだった。これではご休憩もあやうい。あきらめるしかないってか?
 だけど、うっく。この機をのがせば次はいつめぐってくるかわからない。下手をすれば彼女とは二度と――。
 今なら瀬水もきっちりその気になっているハズだ。それなのに、それなのに……。
 手持ちは二千円。これまでのムードはバッチリ。
 瀬水に借りる訳にもいかないし、早くしないとホテル街を抜けちまうし、さっきまですっかりその気になっていた僕のナニは緊張してそのぅ……つまり……。
 かといってそこらの茂みでっていう訳にも。
 う〜ん。どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
 と、いうところで目が覚めた。何だってンだ!
 ベッドサイドのアラームクロックは午前四時九分を表示していた。
 トイレに行った後、気になるので財布の中味を調べてみる。Zライトに照らされた僕の全財産はきっちり二千円だった。
 バカ野郎〜っ!





「おはよう、星夜」
「おはよう、あ……」
 いつもの時間。いつもと変わらぬプラットホーム。だけど、何故か……瀬水の笑顔が眩しかったりするんだよね。
「何? どうかした?」
「え、別に……」
 僕は構内に滑り込んできた列車に視線を移し、扉が開くと同時に乗り込んだ。
「どうした? 顔色が良くないぞ」
 ひとつ向こうの駅から乗っていたえいは僕の方を見るなりひとこと。
「あンだよ、朝っぱらから。大体、挨拶あいさつぐらいしたらどうなんだ?」
「これは失礼。では改めて。モーニン・マイ・ベストフレンド!
 フラストレーションを溜め込むのは良くない。こういう時には昇華させるのが一番だ。のどかに相手をしてもらうか?」
「おまえなァ……」
 僕は映の首に腕をまわして奴の顔をグイと引き寄せた。
「瀬水が目の前にいるんだぞ」
 僕は腕に力をいれる。映は少し苦しそうにしたが、いつもの口調のまま。
「放課後、和に部室に来るように云っておこう」
 そしてタイムリミット。眼前のドアが左右に開き、僕らはホームに押し出された。
 和というのは映の弟で外見は兄貴に似て触れば折れそうな優男なのだが、どうしてどうして。合気道二段、剣道初段の猛者で、僕や映の通っている高校の一年生。剣道部の早朝練習の為にすでに学校にいるはずだった。




 映の奴はてっきり忘れているものだとばかり思っていたんだ。
 午後三時十五分。授業終了のチャイムが鳴ると、僕と映は――偶然にも同じクラスなので――連れだって部室に行き、部活動なるものを始めた。
 世間というものは本当に不思議なもので。映は映画研究部の部長なのだった。僕は名ばかりの副部長。実際の職務はほとんど会計係の紫藤 芽しどう めぐむという女の子がやってくれている。

 シナリオの最終チェック、キャスティングの確認。大中小とりまぜての道具のリスト作成……と、珍しくもひどく真面目に部活が進行し、やがて下校時刻を知らせる放送。
 当然僕は素早く帰り支度を終え、部室のドアに手を……
 僕が開けるまでもなくドアが開き、にっこり笑った和の顔が出現した。稽古けいこ着を着たまま額に汗を浮かべている。
「遅かったな」
 背中で映の声が響いた。
「兄さん達もやる事があるだろうと思って。如月さん、行きましょうか?」
 和は僕のカバンをぶんどって歩き出した。仕方がないのでついて行く。
「行くってどこへ?」
「第二体育館ですよ、もちろん」
「え、だって下校時間……」
「水戸川先輩が延長届けを出してくれているはずです。心配いりませんよ」
 第二体育館というのは剣道部の練習場で水戸川というのは剣道部の部長だ。宮沼映は口にした事は実行する男であり、和は実行不可能でない限り頼まれた事を断る事はしない。
 そして僕はあまりにも健全で人当たりのいい和に弱いときていた。
 体操服は教室前のロッカーに入れてある。




「小手――っ!」
 ジィィ〜ン。僕の右手に電撃が走り、思わず竹刀を取り落としてしまった。和は決して嫌みではなく笑いかけ、竹刀しないを拾ってくれた。
「だらしないですよ、如月さん。まだ一本もとれてないじゃないですか」
 並の奴が云うとひどく嫌らしい科白になるのだろうが、和には持って生まれた人徳とでもいうものがあるのだろう。僕は苦笑を返すしかない。が、それでやめておけばいいのものを、修行の足りない僕は云わなくていい事を口にする。
「俺は週一回授業で習ってるだけだぜ。毎日やってるお宅とは違うさ」
 そして、ふと壁の時計の短針が七を指しているのを目にした。
 和も気付いたのだろう。今日はここまでにしておきましょう、と云って僕の防具を外してくれた。
 和は体育館の鍵を返しに職員室へ寄って行くから、と駆けだしていく。バケモノじみた体力だ。




「え?!」
 ふと自分の目を疑った。が、見間違う訳がない。校門の傍で瀬水が待っていた。
「どうして?」
「宮沼君が待っててやってくれって云って。さっきまでいっしょにいたんだけど」
 もちろん瀬水の云う宮沼君は映の事で、和は和君、になる。
「いっしょって、校門ここで?」
「『安庵アンアン』よ。いちごパフェおごってもらっちゃった。
 もうそろそろ終わる頃だからって。ね、歩きながら話しましょ」
「ああ。映は?」
「先に帰ったの。用を思い出したからって。
 ねェ、綺麗な星空!」
 瀬水は立ち止まって空をあおいだ。
「ホントだ。歩いて帰ろうか?」
 電車で一駅。歩いて三十分。
「そうね」
 今日の瀬水はどうしてかひどく機嫌がいい。僕は瀬水の腰に手をまわし……
 別にそのつもりだった訳じゃあない。帰りがこんな時間になったのは映のせいだし、二人っきりになったのは偶然だし、星が綺麗だと云ったのは瀬水だし、瀬水の家まで歩いて帰ろうとするとここを通る事になる。
 PTAやなんかが目の敵(かたき)にしているネオンまばゆいホテル街。
 二人とも家人がうるさい家庭には育っていない。電話一本いれておけば……
 僕は心密かに映に感謝し、和に感謝し、星々に感謝した。
 そして、唇に苦い笑みを浮かべる事になる。
 思い出したのだ。
 財布の中味を。






冒頭で星夜がみた夢は友人のお兄さんがみたという夢とほぼ同じです。金額は違いますが起きて財布の中を点検してみたら、夢の中と同じだった、というのも実際にあった事。
その後の話は風日の付け足しですけどね

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