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お腹のアンコは甘いけど……
ううっ、寒……。
人気のない公園。吹きすさぶ木枯らしの中、僕は両手をジャケットのポケットにつっこんだまま首をすくめた。ふと顔をあげると、片隅にタイヤキの屋台。これ見よがしに並べてあるタイヤキはどれもホカホカと湯気をたてていて、ひどくうまそうに見えた。買ったばかりのスニーカーが僕を屋台の前まで運んで行く。
「ひとついくら?」
人の良さそうなおじさんが半分なくなった前歯を見せて答え、僕がつかみだした小銭を受け取って、紙に包んだタイヤキを1匹渡してくれた。
冷え切った指先がむずがゆい。少々行儀が悪いけど、女の子が見ているワケでなし、構うものか。僕は足早に公園の出口に向かいながらタイヤキを腹に納めるべく、顔筋にしかるべき運動をさせた。
「ん……?!」
タイヤキをつかんだ手がバカみたいにあけた大口まで数センチのところでピタリと止まる。どうも……変だ。
手の中のタイヤキが突然ギョロリと眼をむき、シッポをバタつかせた。
「なっ、なんだっ?!」
前代未聞の出来事に僕の脊髄[神経が経済観念を抑え込んだ。つまり、食い物[を投げ出してしまったのだ。が――
パチクリ、パチクリ、ゴシゴシ、パチクリ。
地球には約1Gの重力があり、上にのっかっている物体はすべてその影響を受けている……ハズだ。ハズ、と云うのはつまり、目前のタイヤキが重力の影響を受けていないように見えるからで、要するに――宙に浮いている。
驚愕[、恐怖、疑惑――。
最初の3秒間でそういった感情が流れ去ると、約2秒の空白の後に好奇心、そして怒り。
怒りの源[は先刻敗北を喫[した経済観念と、宙に浮かんだタイヤキの人を小馬鹿にしたような眼つきだった。
タイヤキごときにバカにされてたまるものか! おまえは僕の所有物なんだぞ!
僕は腰を低くして身構え、間合いを測って飛びかかった。
「くぉぉぬォお!」
僕の攻撃を軽くかわしたタイヤキは悠然[と宙を泳いでいる。と、思うと……
「イテッ! いてててててっ!」
あやうく左耳を食いちぎられるところ。なんとコイツには歯があるのだ。
「ぐっ……!」
今度は腹に猛烈なヘッディング。だけど僕だってそれほど鈍いワケじゃあない。腹にめり込んでいるタイヤキが逃げ出さないうちに素早くシッポをつかんだ。もっとも、バランスを崩しながらではあったけど。
ムギュッ!
地面と尻がキスした瞬間、右手に異様な感触。尻の痛さに思わず強く握りしめ過ぎてしまったようだ。タイヤキはシッポのところでふたつにちぎれ、粒アンが散乱していた。
見る間に細胞分裂――
さ・い・ぼ・う・ぶ・ん・れ・つ?
そう、ちぎれ飛んだタイヤキのかけら、アンコのひと粒ひと粒にいたるまでがムクムクと成長し、完全な形のタイヤキになったのだった。もちろん宙に浮き、歯をむきだして。
「うわあぁァ――っ!」
僕はタイヤキの大群に襲われ始めた。叩き潰[せば潰すほど、タイヤキの数は増えていく。
タイヤキに喰われて死ぬなんて……。
そんな不名誉な、いや不条理な……。そんな事があっていいワケがない!
なんとかタイヤキを傷つけずにやっつける方法はないんだろうか?
火事場の馬鹿力――いや、これは違う、窮鼠[猫を噛む? これもなんだか違う。ああっ、とにかく、なんだ……パニクりまくった僕は後でなんでそんな事をと訊かれても答えられない行動にでた。
両足を開いて腰を沈め、左手で右手首をつかむと手近なタイヤキに狙いを定めて引き金を引く動作をした。
手応えあり!
見えない弾丸[をくらったタイヤキは一瞬空中で完全に静止してから垂直に地面に落下した。冷たい地面の上で型くずれひとつなく横たわっている。
僕は続け様に引き金[を引き、タイヤキ共はバタバタと墜落していった――
最後の1匹を撃ち終わり、ホッと肩の力を抜いた僕の傍を小さな影が走る。それもひとつではない。無数に、だ。
よく見るとそれはすごいスピードの猫達で、あれよあれよという間に1匹ずつタイヤキをくわえて駆け去って行く――
後には泥にまみれ、あちこちにタイヤキの歯形を残した僕一人。
いつの間にか、タイヤキの屋台も消えていた――
上記は学生時代に提出用課題として書いた短編アニメの企画書です。企画の練習用なので絵コンテまでで実際にアニメにはしなかったのですが……。
落書きを整理していたらひょっこりでてきたもので、稚拙なのは承知でUPしてしまいました。